主な研究INVESTIGATION

脳・脊髄同時記録機能的MRI(cs-fMRI)を用いたヒト手指の運動制御の観測
2023-10-05 先進脳画像研究部

脳・脊髄同時記録機能的MRI(cs-fMRI)を用いたヒト手指の運動制御の観測
Observation of human hand motor control using simultaneous brain and spinal cord functional MR


令和5年5月31日から6月4日まで開催されました「第64回日本神経学会学術大会」において、IBIC先進脳画像研究部所属研究員の時村瞭が発表しました「脳・脊髄同時記録機能的MRI(cs-fMRI)を用いたヒト手指の運動制御の観測」がポスター優秀演題賞候補セッション(臨床部門)にノミネートされましたので以下に紹介いたします。


○ 時村瞭1,2、阿部十也2、宇川義一3、小玉聡1、代田悠一郎1,4、濱田雅1、戸田達史1
○ Ryo Tokimura1,2, Mitsunari Abe2, Yoshikazu Ugawa3, Satoshi Kodama1, Yuichiro Shirota1,4, Masashi Hamada1, Tatsushi Toda1

1 東京大学大学院 医学系研究科 神経内科学
2 国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター 先進脳画像研究部
3 福島県立医科大学 ヒト神経生理学講座
4 東京大学医学部附属病院 検査部

1 Department of Neurology, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
2 Department of Advanced Neuroimaging, Integrative Brain Imaging Center, National Center of Neurology and Psychiatry
3 Department of Human Neurophysiology, Fukushima Medical University
4 Department of Clinical Laboratory Medicine, The University of Tokyo

目的

ヒトの手指巧緻運動は一次運動野から脊髄運動ニューロンへの単シナプス結合(直接運動伝導路)を動員する。最近、サルの損傷研究により手指運動に一次運動野と脊髄運動ニューロン間の多シナプス結合(間接運動伝導路)が参加することが示され、ヒトでの脳・脊髄損傷に伴う麻痺の機能回復過程を考察する上で重要な知見となっている。我々はこの研究からヒントを得て、指先で摘む動作と手指全体で把持する動作で運動伝導路の動員に違いがあると仮説を立て、脳脊髄回路の動員の違いを脳・脊髄同時記録機能的MRI(cs-fMRI)技術で調べた。

方法

右利きの健常人6名を対象とし、利き手、非利き手を用いて母指と示指の指先で摘む動作(指先ピンチ課題)、母指と示指全体で把持する動作(手指把持課題)を行った際の脳および脊髄の活動をcs-fMRI技術を用いて描出した。SPM, FSL, spinal cord toolboxで前処理を行った上で群間比較を行い、uncorrected p < 0.05を有意とした。

結果

指先ピンチ課題において、利き手、非利き手運動ともに反対側の一次運動野および同側のC7-Th1椎体レベルの髄内の神経活動が上昇していた。さらに、非利き手でのみC3-4レベルの髄内の神経活動が上昇していた。手指把持課題同様に利き手、非利き手ともに反対側の一次運動野と同側のC7-Th1レベルの髄内の神経活動が上昇していたが、指先ピンチ課題と異なり利き手、非利き手の運動の双方でC3-4レベルの髄内の神経活動が上昇していた。

結論

サルにおいて間接運動伝導路の中継神経核である固有脊髄ニューロンがC3-4に位置していることから、ヒトにおいてもサルと同様に手指全体を把持する動作で関節運動伝導路の動員を反映している可能性が示唆された。今回の結果は、ヒトの脳・脊髄損傷からの機能回復の機序を考察する上で重要な情報を提供すると考える。  

 

 

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